Cryptobiosis of Annatto60

アナトー・シキソのクリプトビオシス

繁殖遅延

【日本に棲息するツキノワグマの繁殖遅延】
ツキノワグマは、夏に交尾し、冬の冬眠中に出産するので、見かけ上の妊娠期間は180日から200日だ。しかし、受精卵が着床して細胞分裂をしながら成長していく実質の妊娠期間は55日である。それまでの150日以上、受精卵は着床しないで子宮内をフラフラしている。これを「繁殖遅延」という。

なぜこんな奇妙なことが起こるのか。

理由は二つ。ひとつは、その年の秋が豊作になるか凶作になるかは、実際に秋が来るまでは分からないこと。もう一つは、秋は冬眠に備えて栄養をつけることに専念しなければならないので、オスもメスも交尾に労力を使っているヒマはなく、それ以前の夏に交尾をするしかないこと。

ところで、もし凶作の年に妊娠してしまえば、充分にエサを食べられなかったクマは、冬眠期間中に栄養不足で母子共倒れになる可能性が高い。凶作の年は妊娠しないで済ました方が得策だ。

ここにクマにとっての大問題が持ち上がる。すなわち、交尾は夏にするしかないが、妊娠しても大丈夫かどうかが分かるのは秋以降である。

というわけで、適応に拠って、やむを得ずずいぶん前に作っておいた受精卵を、その年の秋が豊作か凶作かが分かるまで保留状態にし、豊作なら着床し、凶作なら流産する「繁殖遅延」というシステムが出来上がった。

この繁殖遅延は他の哺乳類でもたまにみられる。

NHKラジオ)